1.コーヒーの起源
~アラビア説とエチオピア説~
人類がコーヒーを飲み始めた頃、コーヒーは薬とみなされていました。
では、いったい誰が、いつ発見したのでしょうか。
さまざまな説が存在しますが、有名な2説をご紹介いたします。
発見伝説その1
イエメンの僧オマール ~アラビア~
人々から大変うやまわれていたイスラムの僧オマールは、ある日領主の誤解によって町を追放され、イエメンのオーザブ山に逃げ込みました。そこでオマールは山中をさまよい、食べるもの無く飢えていた時に、一羽の鳥が赤い木の実をついばんでいるのを見つけたのです。オマールは、迷わずその赤い実を口にしましたが、その実はお世辞にも美味しいと言えるものではありませんでした。暫くすると不思議なことに飢えがいやされ、疲れきっていたオマールの身体から疲労がサッと消え、気分までもが爽快になりました。
一方その頃、オマールを追い出した領主の町では、病気が猛威をふるい、人々を苦しめていました。人々はオマールが町にいたときに、彼の祈りによって多くの人々が助けられたことを思い出し、すがるようにオマールを追ってオーザブ山に分け入り、助けを求めたそうです。人々から町の惨状を聞きくと、オマールは深く悲しみ、町の人のために祈りを捧げました。そして、自分の身体に不思議な力を与えてくれた赤い実の煮汁を人々に与えたのです。
すると多くの人々が、オマールに起こった奇跡と同じように、病からあっという間に回復しました。人々は救われ、町は蘇りました。このことから、オマールは以前にもましてあがめられ、町にむかい入れられたそうです。
この町とは、あとにコーヒー豆の積み出し港となり、コーヒー豆の名前としても有名なモカの町。そしてオマールは、この地名をとって『モカの守護聖人』と呼ばれるようになったといいます。
発見伝説その2
ヤギ飼いカルディ ~エチオピア~
「修道士様、これは奇跡の実です! ヤギとこの僕に奇跡がおきました!」
興奮した面持ちで話すヤギ飼いの少年の手には、その奇跡を起こすという赤い実が握られていました。この少年の名はカルディ。アラビア半島とアフリカ大陸が出会う場所での物語。この地こそ、私たちが愛するコーヒーの生まれ故郷とも言うべき運命の場所だったのです。
ある日のこと、ヤギ飼いのカルディは放し飼いにしていたヤギたちが、夜になっても元気に飛び回っていることに驚きました。
「なぜだろう? いったいどうしたんのだろう?」
不思議に思ってカルディがヤギたちを暫く観察していると、ヤギたちがみな赤い実を食べていることに気付きました。そこで勇気を出してカルディもその実を口にしたのです。するとどうでしょう。全身に活力がみなぎってきました。これに驚いたカルディは修道士の元にかけつけ、前途のようにこの奇跡を告げました。
カルディの話を聞いて修道士はその実があれば、夜の長い祈りを襲う睡魔に打ち勝つことができるのではないかと考え、赤い実を口にしました。結果はカルディの言った通り。そして、修道士の間で赤い実は“秘薬”として広まっていきました。
この2つの伝説にでてくる「赤い実」は、コーヒーに違いありません。僧オマールとヤギ飼いカルディの物語に共通するのは、コーヒーの実の持つ奇跡の力と、僧たちです。コーヒーは僧たちの修行に秘薬として長い間使われることになり、世界に広まっていったというのが、伝説によるコーヒーの起源です。